輝く海外女性拳士
Suzuko Okamura Hamasaki  -アメリカ編-
浜崎鈴子の空手道    No.7 

スウェーデン障害者スポーツ武道協会での指導
 (2005/2006年:スウェーデン・ノルボッテン県障害者武道協会主催合宿にて)

45年の空手道人生の中で忘れられない思い出は数多くありますが、スウェーデン障害者スポーツ連盟武道協会の会長、ポントス・ジョハンソン氏の招きで、2005年と2006年に障害者を指導したことは、私に新たな1頁を開いてくれました。どういう意味で新たかというと、今まで老若男女を教えたことはありましたが、身体的あるいは知的にハンディーを持った人達を正式に教えたことはなかったからです。この経験は、正に“目からうろこ”でした。

例を挙げてみましょう。車椅子の生徒達は、形をする時、自分で車椅子の方向を先ず変えます。そして、受けと突きをします。蹴り技がある時は、足を上げられるだけ持ち上げます。知的障害を持つ人は、いくつもの動きを一度に覚えられないので、先ずは、方向転換、それから立ち方を加え、手の動きを入れて、というように一つ一つ習得して行きます。時間はかかります。しかし、指導側が“諦めない”限り、彼らは必ず覚えます。後、重度障害者(=自力で座れない人)ですが、彼らが寝たままの状態でアシスタントがミットを持って、突きの練習をさせます。もちろん、私達が思うような“突き”はできません。最初は手を上げることさえできないのですから。でも、必死に“突こう”とすることによって、少しずつ手が上がり、的に届くようになってきます。このような運動を繰り返す内に何ができるようになるかというと……日常生活の中で動かせなかった手や腕が動かせるようになり、例えば、一人で物が食べられるようになるのです。一人で食べられるようになると、ある意味で自立が可能になり、自分で生活できるわけです。これって、幸せですよね。昨日できなかった事がだんだん出来るようになる、というのは誰にとっても嬉しいものです。そういう意味で、空手の練習が心身共に日常生活に生かされるとは、正にこのことだと思われませんか。

もう一つ感じたのは、障害者に対する社会の姿勢です。アメリカに来て感動したことの一つとして前にも述べたのですが、障害者を特別視するのではなく、社会の一員として権利を尊重し、一般の人同様、快適な日常生活を送れるよう支援するという姿勢です。町中のどこにでもハンディキャップ用の設備があるのは、その証拠かもしれません。スウェーデンでも障害者に全く偏見がないというわけではありませんが、日本社会と比べれば雲泥の差です。日本は先ず障害者自身より家族が弱気になっているケースが多いように思います。家族が否定的な気持ちでいたら、いったい本人はどうしたらいいのでしょうか。スウェーデンで出会った15才の、まだあどけなさの残る青年に「なぜ、空手を始めたの?」と尋ねた時です。彼はこう答えました。「知的障害の兄が空手をやっていて、きっと練習相手が必要だろうと思ったから。お兄ちゃんと空手をやるのが、とっても楽しいいんだ!」と。彼の顔は本当ににこやかでした。

空手がこんな形で世界のどこかで人と社会に役立っている。その新たな発見と共に、空手道が流派や会派という小さな殻に閉じこもらず、社会全体の福利に貢献すべきであることを再確認した次第です。



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